敏腕弁護士はどうしてタイピングが遅い人を雇用するのか
それでは、続いて応用問題をやってみましょう。
A国は同様に1日で10台の自動車を100名で、他の100名で5tの小麦を生産するとします。B国はなく、代りににCという国が存在します。C国においては、1日に100人で自動車5台、他の100人で小麦を4tしか生産できないと想定します。このときA国にとって自動車でも小麦でも生産性が自国より落ちるC国と貿易関係になるのは、何か利益をもたらすのでしょうか。
結論を先に言うと、このケースでも貿易することはどちらの国にも利益をもたらします。
A国が200人で自動車の製造に集中すれば、1日で20台の自動車が製造でき、C国の200人が小麦を作ることのみに従事すれば1日で8tの小麦を作ることができます。
この時両国の生産量を合算すると自動車20台、小麦が8t生産されます。貿易を始める前の2国の生産量を合算すると自動車15台、小麦9tでした。
従って、貿易を行うことによって自動車は5台増え、小麦は1t減ることになります。
ただし一般的に1tの小麦の価格よりも自動車5台の方がずっと高いのでこのケースでもトータル的な利益は増加します。これは「比較優位の原則」と言って、「1時間に100ドル儲ける敏腕弁護士が1時間に10ドルの時給で、自分よりタイピングが遅い人をわざわざ雇用すること」が理屈に合っていることの裏付けとして経済学の教科書によく載せられています。
これはタイピストがタイプするのに弁護士がタイプする10倍もの時間がかかればまた違う話になりますが、2倍くらいであれば、弁護士はタイピングに使う時間を弁護士としての仕事に従事している方が、ずっと利益がでるのです。何故なら弁護士が6分の間タイピングをしなければならないとすれば、10ドルのお金がかかるのにたいして、タイピストが同じボリュームを12分タイピングしたとしてもたった2ドルで済むのですから。
「勉強の自由貿易」の成果は、制限なく広まる
経済についてのお話しとなりましたが、こういった「自由貿易の成果」は勉強においても必ずあるのです。私が教える塾の子たちにもいい聞かせています。
つまり一緒に勉強をする友人を貿易相手と家庭するのです。
すると互いに協力し合うことによってそれぞれの得意と不得意分野を補充し合い、また手持ちの教材を貸し借りすることによって、孤独な勉強をしている時よりも絶対に能率が上がります。もし友人が全ての学科において自分より成績が悪くてもお互いが持っている情報交換を行うだけで何もない状態から情報を集めなければならない時間が短縮できるのです。
さらに勉強をするときに友達を作ることは前項の自由貿易の理論を大きく上回る成果がでます。
それは勉強においての情報や学習の中身は経済学で言うところの「制限のある財産」ではないので、人に伝えても自分の知識が消えてしまうことはないーということです。
制限のある財産について貿易を行えば、損得勘定(前項のA国とC国のたとえ話で言うと、自動車5台と小麦1tの差引勘定のような)をしなくてはなりませんが、勉強における貿易は常時利益を生み出します。
このような説明を聞いているとこのように考える人がいるかもしれません。
勉強における情報交換では、物の財産は保有できるけれど、『誰かに情報を伝える時間』と言う財産を失くすんじゃないの?適格な指摘です。このことについては私は以下のように受け止めています。勉強においては、生徒の側だけが一方的に学習しているわけではありません。本当は一番効果が上がる勉強法の一つは「誰かに伝えること」なのです。
誰かに伝えることによって自分の理解も深まり、記憶力もよくなります。
だから教える人の方がずっと時間が節約されるのです。友人に対して、自分から伝えるだけで自分の勉強の能率がずっと良くなるのですから「教えさせてくれている」友人をありがたく思わなければならないほどです。
例外として教える側が「これは時間が無駄だ」と感じる時だけは、両方のためになりませんが、短い時間であれば、それはたまにしかないことでしょうから(ですから理解できない説明を長々と聞いている必要性は全くありません)。
このように知識や情報は誰かに教えたら失われるものではなく、むしろ教える側も教えられる側も頭の中が整頓され、知力が高まることに繋がるのです。吹田の塾の子たちも整理整頓できるのならと頑張っていました。このようにして「教える・教えられる」という行動によって能率は制限なく高まっていきます。
前回の記事はコチラ→【勉強友がいると良い】