「向山型算数」を実践し始めた吹田のある塾の講師が、二学期末にクラスでアンケートを取りました。
その中に、「何か自信がついたことがあれば書きなさい」という項目がありました。教科に限らず、何を書いてもいいのです。
それにもかかわらず、塾生の三八名中のなんと二七名―――つまり、七割もの子どもが「算数の勉強に自信がついた」と回答したのです。
ですから、お子さんの塾の講師が「向山型算数」を実践・研究していれば、まず問題はありません。真面目で熱心な塾の講師であれば、確実に「算数ができる」子になります。
しかし、塾の講師が相も変わらず「課題解決」型の授業をおこなっている塾の講師なら、きわめて問題であると言わざるをえません。
子どもが「算数がわからない」「算数が嫌い」と言うのなら、なおさらです。
とはいえ、方法がないわけではありません。
家庭で「向山型算数」を取り入れるといいのです。
ご家庭で授業をしろ、というのではありません。
以下に紹介する、算数のノートの書き方や、計算問題を解くときのちょっとしたコツを子どもに教えてあげるといいのです。
いずれも「向山型算数」授業で実践されていることです。
そして、これを実行するだけでも、算数の成績はグンとあがります。
ただし、以下のことには気をつけてください。
ダメな例です。
シャープペンシルで勉強する子は伸びません。
学習は、日と指と頭でするのです。指は、第二の頭脳といわれるほど大事です。シャープペンシルでは、指先に力が入りません。
それから、ミニ定規を使わない子は伸びません。
五十年も昔から吹田の塾などでは算数の授業にミニ定規を使わせていました。これだけでも、平均点が一○点はあがるのです。ミスが激減するからです。
ノートが汚い子も伸びません。塾で見ていても気づきます。
この三つは、いうなればプロなら誰でも持っている伸ばし方の秘訣です。賢い母親は、こうしたことをきちんと我が子に教えています。
しかし、世の中にはわけのわからない親がいて、「なぜシャーペンじゃダメなのですか」「ミニ定規なんか必要ないです」と塾の講師にくってかかる人もいるのです。
そういう人は「自分は正しい」という思い込みが強く、親として子どもをダメにしているのです。そんな親が地域によってはいるのです。私が長く勤めていた豊中の親はみんな、当然のように、子どもに鉛筆を持たせ、ミニ定規を使わせていました。
ノートがうっとりするくらいきれいに書けるようにする
ノートの書き方については、私は最初の時間に指導します。「ノートなんて、たいして重要ではない」と思われるかもしれませんが、ノートの書き方は、実はたいへん大事なのです。
勉強ができるかできないかは、ノートを見ると一目瞭然である、とも言えま
す。
なぜノートを見れば、勉強の出来不出来がわかるのか―。
たとえば六年生になると、〈帯分数を仮分数になおして、分母、分子同士をかけ合わせ、たすきがけで約分し、仮分数を帯分数にして答えを出す〉というように、何段階もの手順を踏んだ計算が必要になってきます。塾で教えるのに力が入る計算です。
ノートがグチャグチャであれば、それだけミスも多くなります。
ていねいに見やすく書く習慣をつけておかねばなりません。
むろん低学年の場合も、ていねいに見やすく書いている子のほうがミスが少ないのです。
さて、「向山型算数」では、子どものノートが見違えるほど、きれいになってきます。
親はもちろん、子ども本人もびっくりするくらいです。
では、子ども本人もびっくりするくらい、きれいなノートを書くためには、どうしたらよいか。
まず、ノート選びから気をつけることです。
ゆったりしたノートを使うことが大事です。
背伸びをしたくなるのか、罫の間隔の詰まったノートを使う子がいますが、感心しません。
たとえば私は、六年生の授業ではノートの選定を「二二行の罫」にしています。普通は二七行でしょうが、二二行のほうが絶対にいいのです。
私の指示にもかかわらず、二七行の罫のノートを持ってきた子がいました。
授業をしてみると、ミスが多いのは二七行の罫のノートを使っている子なのです。
ゆったりしたノートを使っている子は、力がついてきます。
さて、ゆったりしたノートを選んだら、以下の五点を習慣づけるようにします。
①日付、ページ数、問題番号をきちんと書く
ノートの新しいページを開いたら、私は、まず子どもたちに、ノートの左上に日付を書き込ませます。
そして、教科書の問題を解くときは、教科書のページ数、問題の番号をきちんと書くように指導します。
これをすることで、ノートの整理がつきやすくなります。また、あとでノートを見直すときにもわかりやすくなります。ノートのあいているところに、がむしゃらに書いていると、何がなんだかわからなくなって、わからないところがあっても自宅で復習する気にはならないものです。
「授業を受けるときは、ノートに日付を書きなさい」「問題を解くときは、教科書のページ数と問題の番号を書きなさい」と家庭で指導なさるといいでしょう。
子どもは、ついうっかり書き忘れしやすいものですが、〈日付、ページ数、問題の番号》を書いておくことはたいへん重要です。
書き忘れをしていたら、何度でも言うことです。
②問題と問題の間隔をしっかりとる
問題を、びっしりと詰めて書く子がいます。
これも、ノートを見にくくしますし、ミスを犯しやすくする原因です。
問題と問題の間は、たっぶり余裕をとることが大事です。
といっても、「少しあけなさい」では、子どもにはわかりません。
計算を書いたら、次の計算を隣に書くときは、指が二本入るくらいあけます。
具体的に「指二本」と言うことが大事です。実際にノートに指を二本置いてみて、「このくらいあけるのよ」と言うといいでしょう。ノートが見違えるようにきれいになります。
下の行に移るときは、一行か一行あけます。
こうすると子どもたちは、「一行あけると、不思議に書けるようになって、計算が楽しくなった」と言います。
また、余裕をつくると、ノートがどんどんなくなります。「二冊目になって、うれしい」「三冊目になったよ」と、子どもは大喜びします。
③消しゴムで消さない
「間違えても消さない」というのが、「向山型算数」のノートの書き方の大きな特徴です。
間違えたら、その横に、新しくやり直させるのです。
ですから、「向山型算数」では、消しゴムを使いません。
他の教科についても言えることですが、勉強は間違ったところこそが重要です。
なぜ間違えたのか、どこをどう間違えたのかをあとで見れば確認できるよう、残しておかなければなりません。そこを見直す、やり直すことが、勉強なのです。
間違えたところを消しゴムで消して、正しい答えに書き直していたら、自分がどこをどう間違えたのか、わからなくなってしまいます。
事実、子どもたちは、「間違ったところを消しゴムで消さないので、ノートを見ると、「ここは、こうするんだ」と自分でわかる」と言います。
ですから、答え合わせをするときにも、消しゴムを使わないということが鉄則になります。
私は、間違えたところに、二本線を引いて、訂正させています。
ともかく、「消しゴムを使うと、汚くなるし、時間がかかるでしょう。隣に書いたほうが早いのよ」と教えてあげることです。
そして、間違えたところを家庭で復習するようにするといいのです。
間違いが多い子には、「間違えたところが多い子ほど、できるようになるんだよ」と励ましてやることです。
④ミ二定規を使いこなす
縦書きの計算や分数の式、図、あるいは枠取りは、ミニ定規を使って書くようにするのも大事なポイントです。
「向山型算数」では、ミニ定規を使わずに計算や分数の式を書いた子には、やり直しをさせるくらい徹底して指導しています。
なぜ、ミニ定規で線を引くことに、それほどこだわるのか。
定規を使えば、位取りがきちんと書けるからです。
位取りは、塾の算数の勉強を通して、いちばん大事なことだといっても過言ではありません。
うっかりミスの多くは、位取りの間違いによるもので、定規を使うようになると防げるのです。算数の教え方がうまい塾の講師はみんな、子どもにミニ定規を使わせています。
ミニ定規を使うことに慣れさせることは、「問題の解き方」を教えるよりもはるかに重要です。これは、低学年でも、中学年でも、高学年でもいえる大事な基本中の基本です。
また、「定規を使ってきれいな線が引ける」ようになれば、ていねいにものごとに取り組める能力が身についてきます。算数の計算や文章問題を解くときに、ケアレスミスを犯してしまうのは、ていねいにやるという習慣がないからです。
ミニ定規を使いこなせるようになれば、テストの点数は確実に一○点はあがると断言してもいいくらいです。
⑤補助計算や筆算、基になる考え方をきちんと書かせる
補助計算については別の項で詳しく説明しますが、簡単にいうと、暗算でおこなう計算のことです。
子どもがノートのすみにコチョコチョ書いているもの、すぐに消してしまうような計算です。これを堂々と大きく書かせます。
いちばんわかりやすい例でいえば、わり算です。
「わる」ときには、かけ算をしますが、それを横に書くのです。
補助計算を堂々と書くことで、間違いが少なくなり、またどこで間違えたかも一日でわかるようになります。
また、算数が苦手な子は、「補助計算を堂々と書いていいんだよ」と言ってあげると、安心して問題に取り組むようになります。補助計算はステップを踏みながら解くということですから、スムーズに確実に解けるようになり、だんだん算数が好きになってくるのです。
また、文章問題は、「式・計算(筆算)・答え」という「三点セット」を、必ず書かせます。
式は書けても単純な計算ミスをするのを、これで防ぐことができるのです。また、筋道をたてて考える習慣も身についてきます。
「向山型算数」では、補助計算、筆算、基になる考え方は、算数が得意な子に対しても、「これもお勉強です」と言って、きちんと書かせます。
ご家庭で習慣づけると、算数の力が確実につきます。
以上の五点は、子どもに二、三回言ったくらいでは身につきません。
何度も何度も言うことです。半年以上、ひょっとしたら一年近くかかるかもしれませんが、こうしたことが守れるようになれば、ノートがうっとりするくらいきれいになります。「向山型算数」でノートの指導を受けるようになった子どもたちは、次のように言います。
「ノートをきれいに使うようになってから、算数が得意になってきた」
「二年生にくらべて、ノートがきれいになりました。テストの点数もほとんどよくなりました」
ノートがきれいに書けるようになれば、誰でも算数ができるようになるのです。
前回の記事はコチラ→【向山型算数が広がり、全国の塾へ…ポイントは4つ】