計算問題は、プラス、マイナスなどの「記号」の指示に従って、そのとおりに計算すればいいのですが、文章問題となるとそう簡単にはいきません。
文章問題が苦手な子は、大勢います。私が教える吹田の塾にもたくさんいます。
簡単に、文章問題についても触れておきましょう。
文章問題には、いくつもの関門が待っています。
①まず、文章の意味を理解すること
②次に、何を求めるのか、求めるものを見つけること
③そして、求めるためには、何をどうすればいいのかを考えること
これだけの関門をクリアしていくことが要求されるのです。
ですから、文章問題に強くなるというのは、幾多の関門を自分で乗り越えていく力を育ててやるということです。「考える力」―それも「筋道をたてて、考える力」を育てることです。ですから、ただ単に解き方を教えるだけでは、大事な「筋道をたてて考える力」がついてこないのです。
ご家庭で文章問題を教えるのでしたら、
①問題を読ませて、「この問題は何をしているの?」と聞くことです。
何をしているのか、何のことなのか、場面がイメージされると、子どもは考えがどんどん深まるからです。
「それで、次はどうなったの?」と聞きます。
間違っても「縦と横の長さはどうなったの」「紙は何枚配ったの」などと聞いてはいけません。説明はせずに、問いの内容を子どもに把握させることが大事です。説明をするほど、子どもはわからなくなります。
②「何を聞いているのか、聞いているところに波線を引いてごらん」と、問題にアンダーラインを引かせます。求められていることを、はっきりさせるのです。
③「答えが、どうやったら出るか式を書いてごらんなさい」
式が書けないときは、「書いてあることを図にしてごらんなさい」と言うのも一つの方法ですが、ウォーミングアップをさせる方法もあります。
たとえば、「道路に白線を3.6メートル引くのに、ペンキを8.28dl使いました。白線1メートルを引くのに、ペンキを何dl使いましたか」
という問題があったとしたら、
□「道路に白線を2メートル引くのに、ペンキを4dl使いました。白線1メートルを引くのに、ペンキは何dl使いましたか」
簡単にわかる数字に置き換えて、問題を出してみます。
答えが言えたら、「式を書いてみて」と式を書かせます。
□「では、道路に白線を4メートル引くのに、ペンキを2dl使いました。白線1メートルを引くのに、ペンキは何dl使いましたか」
少しだけ難しくします。そして式を書かせて、答えを出させます。
次に、「今度は難しいよ」と言って、
□「道路に白線を5メートル引くのに、ペンキを2dl使いました。白線1メートルを引くのに、ペンキは何dl使いましたか」
同じように式を書かせて、答えを出させます。
こうして「じゃあ、元の問題を解いてみよう」というようにすると、式がすらすら書けるはずです。
(このやさしい問題を出題する方法は、計算問題についてもたいへん有効です。小学校一年、二年、三年レベルの問題に戻って、助走をつけてから難しい問題に挑戦させるといいのです)
それと同時に、文章問題で重要なのは、「式・計算(筆算)・答え」を必ず書かせることです。「向山型算数」では、これを「三点セット」と呼んでいます。
また、三点セット以外に、図を書かせることもあります。
よりわかりやすく、筋道をたてて考えるためです。
「三点セット」に、この図を加えたものを「四点セット」と呼んでいます。
文章問題を解くときに「三点セット」や「四点セット」を書くようになると、正確さと確実性が身についてきます。
正確さが身についた子どもは、間違いなく算数の力が向上します。
書き写すことの重要性
以上、「向山型算数」からいくつか抜き出して紹介してみました。
どれも、家庭で子どもの勉強を見てあげるときにできることばかりです。塾でも教えていることばかりです。
もう少し突っこんだことが知りたい、あるいはもっと「向山型算数」について知りたいということでしたら、明治図書から『向山型算数教え方教室」という月刊誌が出ています。それをぜひ参考になさってください。
さて、「向山型算数」に関連して、もう一点だけ付け加えます。
算数が遅れている子の勉強法です。
次の一つのことを心がけられるといいでしょう。
まず、「わかるところまで戻って」教えることです。
少しずつ前に戻って、わかるところを探して、そこから復習させるのです。
お母さん方は、わからないところが見つかったら、そのわからないところを教えがちですが、この方法ではなかなか効果があがりません。わからないことを勉強するのは、大人でも苦痛です。子どもなら、なおさらです。
わかることなら、子どもは楽しく勉強できます。
「急がば回れ」です。結果的には、わかる段階まで戻るのが、いちばんの早道です。
さてもう一点は、「向山型算数」で実践されていることです。
いま習っているところがわからなくても、「写すのも勉強のうちですよ」と、教科書や、問題の答えをノートに書き写させるのです。吹田の塾ではそうしています。
書き写していくうちに、だんだん力がついてきます。
そんなことでほんとうに力がつくのだろうかと思われる方もいるでしょうが、「向山型算数」授業では、書き写すことで力をつけた子が大勢います。
たとえば、算数のテストは、平均点が一桁。くり上がりのある足し算、くり下がりのある引き算は指を使わないとできなかった吹田の塾に通うH君という子がいました。
九九も苦手で、「二八……」とすぐに出てきませんから、わり算は、ほとんどできませんでした。
けれども、「間違えたところは、直しておきます。できていないところは写します。写すのも勉強のうちです。いちばんいけないのは、何もやってこないことです」と指導し、素直なH君はこれを守りました。
H君は、写していくうちに、どうなったか。
九九が早く言えるようになり、わり算の商だてができるようになりました。
くり上がり、くり下がりの計算も、指をあまり使わずにできるようになったのです。テストも二桁台をとれるようになり、まわりがビックリするほど素晴らしい進歩を見せたのです。
むろん、書き写すことだけで、H君がめざましい力をつけたわけではありません。しかし、「書き写す」ことを続けるうちに、ある程度の力はついてくるのです。
お母さんが勉強を見てあげる場合、子どもができなかった問題はそのままにするのではなく、「お母さんの答えをノートに写しなさい」と言うといいのです。
また、問題がなかなか解けなくて困っているときは、「ちょっとヒントね」などと言って、赤鉛筆で薄く、式や答えの一部を書いてあげると、子どもはやる気になるものです。
こうすると、子どもはスムーズに答えが書けますし、全部教えてもらったわけではないので、今度は自分で解いてみようと意欲も出てきます。
お母さんがヒントを出した部分をなぞって、残した部分の答えを出せたら「よくやったね」とほめてあげることです。
算数が苦手な子に対しては、ほめるということがたいへん大事です。
こうしていくうちに、算数にだんだん自信が持てるようになり、算数が好きになってきます。
「写す」とは、つまり「お手本」の文化です。お手本は、塾やアジア圏では何千年も昔から試されてきた有力な教育方法です。
前回の記事はコチラ→【できたことや間違えた問題には印をつける教科書の使い方】